テクノロジーTOP
トレーサビリティ
保有技術と設備
品質保証体系
認定事業者
規格に関する情報
製品への応用技術
製品への応用技術

長作動距離顕微鏡対物レンズと計測、加工への応用

1.はじめに

光学顕微鏡は、試料を拡大して観察する装置として古く(16世紀の後半)から使われてきた大変息の長い装置です。また、完成度も高く、成熟した光学機器で基本的な考え方に大きな変化はありませんが、多様なニーズに応え、機能・性能ともに年々向上してきています。特に、近年顕微鏡を利用した非接触三次元画像測定機、顕微分光装置、干渉計、顕微鏡搭載形レーザを利用したマイクロ加工機等に代表されるような、本来の顕微鏡の機能に加え、新しい機能を付加された装置が極く一般的に使用されつつあります。更に、使用される波長域も可視光領域に留まらず、近赤外域あるいは紫外域へと広がってきています。これら装置を使用する上で大きな制限となっていたのが、顕微鏡対物レンズの作動距離の短さであります。
今回、長作動距離を持ち、近赤外領域から紫外領域までの幅広い波長領域に対応し、顕微鏡の応用範囲を広げ操作性を格段に向上させたミツトヨの“FS顕微鏡対物レンズシリーズ”についてご紹介致します。

2.開発の背景とねらい

最近の半導体の高集積化のスピードは目覚しいものがあり、またそれにつれて検査のニーズもミクロンからサブミクロンへと要求が高まっています。同時に顕微鏡対物レンズにおいても、顕微鏡下での検査、作業用に操作性の良い、高分解能を保ちながら、長い作動距離を持つ高性能対物レンズの開発要求が、産業界から寄せられてます。この高NA(開口数)を持ち、かつ長作動距離であるという相反する要求を満たすために、ミツトヨでは顕微鏡対物レンズに規定された“同焦距離45mm”という値を見直し、“同焦距離 95mm”とすることでレンズ設計の自由度を増し、高倍率、高NA(高分解能)、長作動距離をもった高性能顕微鏡対物レンズを開発しました。(図1)

3.FS顕微鏡対物レンズの特長

FS顕微鏡光学系は、対物レンズと結像レンズ(チューブレンズ)を使って像を作る“無限遠補正”光学系を採用しています。対物レンズ及び結像レンズをそれぞれ独立に収差補正する方式としました。つまり“FS顕微鏡対物レンズシリーズ”は、それ自体で完成された光学系です。従って、そのまま利用出来るだけでなく、ユーザサイドでも結像レンズを自由に設定し、自社装置への組込みが可能であり、発展性のあるシステムに展開できます。ミツトヨとしては、数種類の結像レンズ を供給しており、またこの光学系を搭載した装置組込み用顕微鏡ユニット(VMUシリーズ)、高倍率作業用顕微鏡ユニット(FS70シリーズ、VM-ZOOMシリーズ)、検査用顕微鏡(FS110T)、高倍率測定顕微鏡(MFシリーズ)、などを供給しています。

図1 同焦距離の異なる対物レンズ比較
図1 同焦距離の異なる対物レンズ比較

いずれも長作動距離対物レンズを生かしたシステムとなっており、従来の顕微鏡では成し得なかった点を可能とし、抜群の操作性を持ったユニークな顕微鏡システムとなっています。
一般に、対物レンズの設計では作動距離を長く採ると諸収差が発生しやすくなります。光学設計上、有利な点は全くと言ってなく、特に色収差が発生しやすくなります。M Plan Apoシリーズでは、波長による屈折率の変化の割合が通常の光学ガラスとは異なる異常分散ガラスと低屈折率超低分散ガラスを適切に使用して、可視光領域の広い範囲で色収差を補正したアポクロマートを実現しています。更に倍率色収差、非点収差を補正し視野全域で鮮明な像を得ています。

4.FS顕微鏡対物レンズの仕様

FS顕微鏡対物レンズには、以下の様なシリーズがあり、その全てが長作動距離を持ち、特長あるレンズ群を構成しています。


M Plan Apo シリーズ
  ◎
M Plan NIR シリーズ

BD Plan Apo シリーズ
  
LCD Plan NIR シリーズ

M Plan NUV シリーズ
  ◎
M Plan UV シリーズ

LCD Plan NUV シリーズ
  


G Plan Apo シリーズ
  


以下は、簡単な特長と仕様になります。

4-1 M Plan Apo シリーズ BD Plan Apo シリーズ

M Plan Apoシリーズは可視光領域で使用する顕微鏡対物レンズシリーズで、明視野観察用で、BD Plan Apoシリーズは明暗視野観察用です。長作動距離設計で、更に作動距離を伸ばした長作動距離を持つ“M Plan Apo SL”シリーズ、“BD Plan Apo SL”シリーズもあります。

4-2 M Plan NIR シリーズ LCD Plan NIR シリーズ

この対物レンズシリーズは、可視光領域から近赤外領域まで色収差を補正し、更に近赤外領域の透過率を上げて機能を拡大した長作動距離対物レンズです。LCD Plan NIRシリーズは、特に液晶用に液晶のカバーガラス(厚み t=1.1mm、t=0.7mm)を考慮して設計されています。

4-3 M Plan NUV シリーズ LCD Plan NUV シリーズ

M Plan NUV シリーズは、短い波長領域で特に透過率の良い光学ガラスを使用し、可視光領域から近紫外領域まで色収差を補正しています。また、短波長領域まで高透過率を維持するための、反射防止膜も同時に開発しました。NIR シリーズと同様この対物レンズシリーズにも液晶用(t=0.7mm)の対物レンズがあります。

4-4 M Plan UV シリーズ

この対物レンズシリーズは、FS顕微鏡対物レンズシリーズでも最も新しい設計で、昨年ようやく80×、50×、20×までの3機種が揃いシリーズ化が進みました。紫外領域でも透過率を維持するためには、最早レンズ用の硝材に一般の光学ガラスは使えず蛍石や合成石英といった硝材を使用しています。また、反射防止膜も同時に開発しました。

4-5 G Plan Apo シリーズ

試料表面を観察するための対物レンズを使用して、厚いカバーガラス越しに試料を観察するとカバーガラスで発生する多大な球面収差のため、像のコントラストが極端に落ちます。特に高倍率、高NA対物レンズでの影響が大きくなります。G Plan Apoシリーズは、厚いカバーガラス越しに観察等をするために開発した対物レンズシリーズです。厚いカバーガラス越しに試料を観察するには対物レンズが長大な作動距離を持つことが絶対条件で、FS対物レンズの特長を最も生かしたシリーズであるといえます。

表1 FS対物レンズの仕様
表1 FS対物レンズの仕様[開口数(NA)/ 作動距離(mm)]

5.長作動距離対物レンズの代表的な使用例

5-1 半導体不良解析装置(プローバーステーション)

半導体の不良解析装置であるプローバーステーションにおいてマイクロマニピュレーション作業を行う場合、プローブと呼ぶ針(電極)を顕微鏡下で半導体のアルミ配線上に挿入して導通テストをしなければなりません。(図2参照)
この作業は対物レンズの作動距離が短いと非常な困難が伴います。これが長作動距離対物レンズを要求される分野の1つです。そして、このプローバーステーションには当社の装置取付け用顕微鏡ユニット“FS 70シリーズ”及び“VM-ZOOM”がそのまま搭載でき、長作動距離対物レンズシリーズと併用する事により、その性能をフルに発揮して好評を博しています。対物レンズとしては、M Plan Apo,M Plan NIR,M Plan NUV,M Plan UVなどFS対物レンズシリーズのほとんどが、その特長を生かして使用されています。

図2 プロービング作業
図2 プロービング作業

5-2 レーザ加工

顕微鏡を利用したレーザによるマイクロ加工は顕微鏡搭載形のYAGレーザを使用し、マスク投影法により行われるのが一般的です。(図3参照)レーザも当初は、YAG基本波(1064nm)のみでしたが、順次第二高調波(532nm)、第三高調波(355nm)が開発され、現在では第四高調波(266nm)まで開発され、また更に進んでいく気配です。レーザもエキシマーレーザも使われ始めています。ミツトヨの対物レンズでは、NIRシリーズ、NUV シリーズ、UVシリーズがこれに対応しています。近赤外に於ける熱加工から紫外域に於ける光化学加工にいたるまで利用でき、種々の材料に対して最も適切なレーザを選択できます。また、長作動距離対物レンズであるため、レーザ加工の際に蒸発した物質にレンズが汚染されることもほとんどありません。更に、厚いカバーガラス越しに真空槽内や、ガス雰囲気中の被加工物も比較的簡単に加工できます。半導体マスクのリペアや液晶のリペア、また、前述したプローバーステーションに、当社装置取付け用顕微鏡ユニット“FS 70”、“VM-ZOOM”のレーザポートに顕微鏡搭載形レーザを装備し半導体のパッシベーション膜をレーザで剥離しプロービング作業をする事も、長作動距離対物レンズならではのことです。

図3 レーザ加工光学系例
図3 レーザ加工光学系例

5-3 CNC 画像測定機

現在、顕微鏡システムを塔載したCNC 画像測定機は、各測定機メーカから様々な仕様のものが発表、発売されています。検査部門においての省力化や高スループット化、また熟練者でなくとも正確な測定値が求められる、疲労が少ない作業環境など、広く使われる要素が揃っています。
ミツトヨでも、“クイックビジョンシリーズ”や“クイックスコープシリーズ”などを開発し、種々のワークに対応出来る様に豊富なバリエーションを用意しています。ここでも、長作動対物レンズが使用されています。画像測定機では、作動距離の長い対物レンズの需要は多く、特に大きな段差のあるワークに対しても対応ができ、その測定対象の範囲を大幅に広げて多くのユーザから好評を得ています。
図4 クイックビジョンハイブリットQVH250-PRO
図4 クイックビジョン
ハイブリットQVH250-PRO


5-4 平行平面板ガラス越しの観察など

この目的のために、当社では“G Plan Apoシリーズ”を用意していて、その仕様内で事足りる場合も多くあります。しかし、ユーザサイドの要求仕様は千差万別で、使用波長は赤外領域から紫外領域までに及び、平行平面板の材質も光学ガラスはもとより合成石英、サファイヤガラス、ダイヤモンド、液体、その他諸々になります。その厚さも薄い方は0.5mm程度から厚い方は20mmを越すものまであり、また高NAタイプの要求もあります。使い方としては観察用やレーザ加工用、集光レンズ用としてが多いと思われますが、上記の様に“FS顕微鏡対物レンズシリーズ”全般に渡っての要求があります。図5にも示したように通常の顕微鏡対物レンズでは全く不可能な、高温チェンバー内低温チェンバー内、真空槽内、ガス雰囲気中、液体中の試料、超高圧発生装置内の観察などが長作動顕微鏡対物レンズでは可能になります。もちろん仕様に応じて収差補正はしなければならず特注となりますが、適切な光学系をリーズナブルな価格で提供しているためリピートも載いています。長作動距離対物レンズでは、この様な特注レンズが多いのも特長の一つです。

図5 平行平面板ガラス越しの観察
図5 平行平面板ガラス越しの観察

5-5 その他

その他に長作動距離対物レンズの特長を生かした光学機器、光学測定機は数多くあります。いくつかの代表例を下記に示します。

・ホット
エレクトロン 顕微鏡
半導体不良解析
リークなどによる微弱光を検出
・干渉計
マイクロフィゾー干渉計
顕微鏡対物レンズを利用したフィゾー干渉計

リニク干渉計
マイケルソン干渉計で 参照光用光学系と試料用光学系に同じ波面収差を持つ顕微鏡対物レンズをペアで使用
・レーザリペア装置
レーザ加工により半導体やマスクの欠陥を修正
・顕微分光装置
顕微鏡を利用して微小部分の反射分光特性を計測

6.おわりに

今回ご紹介した、“FS長作動距離対物レンズシリーズ”はその長作動距離による操作性の向上、使用波長域の拡大、また今まで通常の顕微鏡対物レンズでは不可能であったことが可能になるなど、顕微鏡光学系の応用範囲を広げたことにより多くのユーザに好評をいただいています。
“FS顕微鏡対物レンズシリーズ“は、ユーザニーズによって開発されたものであり、毎年新製品を発表しています。これからも幅広いニーズに応え、更に“FS長作動距離対物レンズシリーズ”を充実、発展させて行く所存でございます。