レンズの基礎知識
開口数(NA=Numerical Aperture の略)
開口数NAは対物レンズの分解能、焦点深度、像の明るさ等を決める重要な値です。NAは次の式で表され、この数値が大きいほど高解像で焦点深度の浅い像が得られます。
nは対物レンズ先端と試料との間の媒質がもつ屈折率で空気のときはn=1.0 となります。
θは対物レンズの一番外側を通る光線とレンズの中心(光軸)とのなす角度です。
分解能(R=Resolving power の略)
ごくわずかに離れた点、または線を見分けることができる最小の間隔を分解能といいます。
分解能(R)は開口数NAと波長λで決まります。
作動距離(W.D.=Working Distance の略)
焦点が合ったときの試料面から対物レンズ先端までの距離をいいます。
同焦距離
焦点が合ったときの試料面から対物レンズの取付け位置までの距離をいいます。
無限遠補正光学系
対物レンズと結像(チューブ)レンズを使って像を作る光学系を、無限遠補正光学系といいます。
有限補正光学系
対物レンズ単独で像を有限な位置に作る光学系を、有限補正光学系といいます。
対物レンズの焦点距離(f=Focal Lengthの略)と倍率の関係
主点から焦点までの距離で、f1は対物レンズの焦点距離、f2は結像(チューブ)レンズの焦点距離です。倍率は対物レンズの焦点距離と結像(チューブ)レンズの焦点距離の比で決まります。(無限遠補正光学系の場合)
視野数(F.N.=Field Numberの略)・実視野・モニタ表示倍率
試料面がどれくらいの範囲が観察されるかは、接眼レンズの視野絞りの直径によって決まり、この直径をmmで表した値を視野数といいます。実視野は実際に対物レンズで拡大観察されている物体面での範囲となります。
実視野は以下の式で算出できます。
(1)顕微鏡で観察できる被検物の範囲(直径)
(2)モニタ観察範囲
撮像素子の大きさ
単位mm
形式 | 対角長 | 長辺(横) | 短辺(縦) |
1/3 型 | 6.0 | 4.8 | 3.6 |
1/2 型 | 8.0 | 6.4 | 4.8 |
2/3 型 | 11.0 | 8.8 | 6.6 |
(3)モニタ表示倍率
焦点深度(D.F.=Depth of Focus の略)
顕微鏡で焦点(ピント)を合わせたとき、その面の前後にピント面をずらしてもなお、鮮明に見える範囲をいいます。開口数が大きくなると焦点深度は浅くなり、逆に焦点深度が深くなる(開口数が小さい)とピントの合っている範囲が広がり、微細な段差なども同一焦点で確認できます。人の眼の調整力には個人差があるため、人が感じる焦点深度には個人差があります。現在では実験とよく一致するBerekの式が一般的に使われます。実体顕微鏡などの低倍率レンズは焦点深度が深く、カメラ用語の被写界深度と同義となります。
●接眼レンズ観察の場合(Berekの式)
●TVモニタ観察の場合
明視野照明と暗視野照明
明視野照明は視野を明るく照明する観察方法で、明視野落射照明は対物レンズの中を通して垂直に照明し、試料を観察するための照明方法です。
暗視野照明は対物レンズの外周から試料を照明し(光軸に対して傾いた光線で試料を照明します)傷のない平らな部分は暗黒で、凹凸や傷のある部分のみを明るく輝かせて観察するための照明方法です。
アポクロマート対物レンズとアクロマート対物レンズ
アポクロマート対物レンズは三つの色の光(赤緑青)に色収差(色のにじみ)補正を行ったレンズです。
アクロマート対物レンズは二つの色の光(赤青)に色収差補正を行ったレンズです。
ケーラ照明
視野絞りと開口絞りをもつ照明光学系で、生物顕微鏡や金属顕微鏡などの多くに採用され、照射光が観察面上に直接結像せず光を観察範囲全体にムラなく照射されます。視野絞りで照射される範囲の輪郭は明確となり、開口絞りで明るさの調整を行えます。
テレセントリック
主光線が焦点を通るように設計された光学系で、焦点がずれても像中心の大きさが変わらない特長をもちます。
開口絞り
光の通る範囲を調整し、明るさ、分解能に関係する絞りです。特に、透過照明を用いて円筒被検物の幅寸法測定時に適切な絞りで回折光を抑え、正確な測定・観察を行う事ができます。
視野絞り
観察範囲外の光を遮断するための絞りです。余計な光を遮断する事で鮮明な像を確保できます。
プラン(Plan)
アクロマートレンズやアポクロマートレンズの像面・画像の湾曲を補正し、平面な像が平面としてはっきりと映し出されるように補正した対物レンズのことをいいます。弊社のFS対物レンズは全てPlan仕様です。
ケラレ
対物レンズを通して入る光が結像するまでの過程において何らかの障害によって周辺部で暗くなったり、陰ったりする現象をいいます。
フレア
レンズ内の内面反射や鏡筒内での光の散乱により視野内に光が重なる(白っぽく見える)現象をいい、像のコントラストを落とす原因になります。
二重像
結像光学系内の光学部品による多重反射により、一つの像が二つに重なって見える現象をいいます。
対物レンズの瞳径とスポット径
●瞳径
対物レンズ(の後側)に入射できる軸上平行光束の最大直径のことをいいます。瞳径は以下の式で算出できます。
●スポット径
対物レンズ(の後側)に均一な強度分布をもったビーム光を入射させた際、集光された強度分布の値が0となる直径のことをいいます。
スポット径の目安は次式で算出できます。
但し、レーザ光のような断面がガウス分布を形成する強度分布をもつ光源の場合、上式はあてはまりません。レーザビーム径は、一般にピークの1/e2になる値、すなわち13.5%になる直径で示され、レーザ光によるスポット径は以下の式で算出できます。