高品質を維持するために設備保全で製造を支える匠マイスター

吉田 誠

匠マイスター吉田 誠

技能名:仕上げ

作業名:高精度ラップ

志和工場 生産部 工務課 保全係

AIやロボット、3Dプリンターなど、ものづくりの現場では技術革新が目覚ましい。しかしながら、テクノロジーだけでは到達できない未知の領域がある。
この特集では、精度の限界に挑みつづけ、卓越した技能でミツトヨ・クオリティを支える匠マイスターにフォーカスを当て、その技能と伝承の取り組みに迫る。

今回は、工場の自製生産設備などを保全し、ミツトヨ製品の製造と高品質を根底から支えている匠マイスター、吉田 誠。

プロフィール

吉田 誠(よしだ まこと)

広島県出身。1978年入社。川崎工場(旧溝の口工場)品質管理課に配属され、主に完成品検査業務に従事。1983年、製造課に異動となり測定器の組立業務に携わる。多くの新製品立上げと高精度自製生産設備の製造を担当。現在は、広島事業所で主に保全業務を担当。広島県から「ひろしまマイスター」としても認定。

売上のカギを握るマイクロメータ内製生産設備

仕上げの匠・吉田誠のキャリアは、1978年川崎工場(旧溝の口工場)から始まった。配属は品質管理課で、主に完成品の検査を行っていたが、測定器を組み立てる方に興味を持つようになり、5年ほど経った頃、自ら希望して製造課に異動となった。デジタルホールテスト(HTD)やリニアハイトゲージ(LH600)など、数々の新製品立ち上げに携わってきた。現在は広島事業所で、内製設備の修理など、主に保全業務を担当している。

ミツトヨは、高精度自製生産設備に匠の技能を活かすことで、“精度”の競争優位を実現している。吉田はこれまで、その技能・技術で貢献してきた。ミツトヨ製品の中でも生産数が多く、売上シェアの高いマイクロメータを製造するための自製生産設備も吉田が手がけたものだ。

門外不出の匠のノウハウを詰め込んで

吉田が手がけたのは、マイクロメータフレームの穴あけ加工をする設備(インデックスマシン)。特徴としては、それまでのインデックスマシンはインデックステーブル(回転テーブル)が中央に位置していたが、作業のしやすさなど操作上の観点から、中心部に加工ユニット支柱を据え、その外周にドーナツ型のインデックステーブルを取り付けていることだ。

門外不出の匠のノウハウを詰め込んで

「測定物と接触する部品を取り付ける穴の加工精度を向上させ、バラツキの少ない安定した加工がいかにできるかを考えて仕上げていきました。一番苦労したのは、インデックスの位置決め精度。アタリを取りながら、少しずつズレを正しました。また、パーツの平面度、直角度をキサゲ(※)にて精度出しを行い仕上げました。」

通常、インデックステーブルは外部から購入することが多いが、精度を追求すれば自製になると吉田はいう。ミツトヨの自製生産設備には、門外不出の匠のノウハウが詰め込まれている。

※ノミ状の工具を使い、表面を平らに仕上げる金属加工法

設備の修理にも生かされる匠の技

吉田が匠たる所以は、自製生産設備の製造はさることながら、故障した設備を蘇らせ高精度を復元する技能にある。

「設備が故障した場合は、まず設備診断を行います。よく使われるところや構造に目を付けて弱点を見極めたり、作業者にヒアリングして、原因を突き止めます。見当が外れる場合もあり、試行錯誤の繰り返しです。」

設備の修理にも生かされる匠の技

長年の経験と勘も交えながら不具合個所を見つけ、部品交換をしたり、場合によって精度調整を行う。高精度に仕上げるためには、誤差の少ない測定機器を活用した評価技術も重要だ。目指すところは、限りなく完全復元に近い状態。そのために、大切なのは「正しい測定」だと吉田は言う。

設備の故障は、ある日突然起きた

ある時、マイクロメータの製造に関わる設備が突発的に故障を起こした。設備は自製ではない外部メーカー製の専用機だった。この設備のインデックステーブルが突然回転しなくなったのだ。故障した設備の周りを作業者らが取り囲み、現場は騒然となった。重要工程を担う設備であり、代替設備もなかったため、短期間で復元しなければならなかった。

「原因を短期間で探るには、インデックス部位の確認が必要なのですが、ほぼ分解しなければならない位置にありました。分解してみると、インデックス部品のモーターは回るが、回転軸が回っていない。さらに原因を探るため、インデックス部品を分解すると、ネジの食いつき部の摩耗により回転が伝わらないことがわかりました」

吉田はメーカーに問い合わせたが、部品は生産を中止しており供給できず、新規購入すると2か月かかるとのことで、どう対応したらよいものか苦慮した。

匠の対応力

「故障した翌日、ネジの軸が対称であることに気づきました。これを180度向きを変えて組み変えてみると、回転軸が駆動し、暫定修理を行うことができました。」

3日間で分解から再組立を行い、停止期間を最小限に食い止めた。このレベルの故障で、「3日で済んだのは運がよかった」と吉田はいう。が、匠ならではの見立て、経験に裏打ちされた冷静な対処があったからこそ。現場の作業者たちは皆そう思っていたに違いない。
さらに、分解しないとできなかった部位の清掃や、改善もできる範囲で行ったという。吉田の抜かりない対応力が見えるエピソードだ。

技能の「標準化」によって確実な継承を実現していく

吉田の保全業務の見事さは誰もが認めるところだが、三面すり合わせラップという超絶技能も特筆すべきだろう。

「特注製品などの精度出しで、三面すり合わせラップによる仕上げを行っています。すり合わせる際の手の感覚とラップ時の熱影響が最小になるよう、すり合わせしていきます。その際に、加工物を固定する部分の座り(高いところ)を確認しながら仕上げていく手の感覚が重要となります」

技能の「標準化」によって確実な継承を実現していく

実は、吉田が三面すり合わせラップをものにしたことには経緯がある。ある非常に高精度な規格の特注製品の製作担当者が定年退職をするということで、1年ほど後任を付けて三面すり合わせラップの技術を指導したが、なかなか精度合格するものを製作できず、吉田に製作の要請がきたのだ。
標準化された資料などもなく、指針となる材料が不十分な中での取り組みになった。試行錯誤を繰り返し、確かな手応えを感じるまでに、吉田ほどの腕の持ち主でも約3か月かかったという。

吉田は、この3か月の体験から得た知見をもとに、技能の継承・人材育成の観点から、「標準化」に取り組んできた。具体的なラップ回数や仕上げのポイントのほか、言語化が難しい手の感覚も可能な限り文書としてまとめた。このマニュアルのとおりやればできるというものを作成したのだ。実際、三面すり合わせラップ技能は順調に継承され、2名の後継者が検査合格品を完成させている。
今後は、三面すり合わせラップの高精度追求やリードタイムの短縮など、後継者自らが技能向上をめざす新たな取り組みを進めていくという。

匠と後継者のいい関係

現在吉田は2名の後継者を育成しているが、コミュニケーションを大切にして良好な関係を築いている。何か秘訣はあるのだろうか。

「上下という関係ではなく、お互いが協力して目標に向かっていくようにしています。上から目線で何かものを言うのではなく、自主性を尊重してそれを引き出してあげることが重要だと思っています。また、コミュニケーションをどう取るかも重要ですね。コミュニケーションを活性化させるには、作業を一緒に行って、疑問点や気づいたことがあれば、何でも聞いてもらって、それに答えるようにしています。作業上のアドバイスは率直に、また相手が納得できるよう、なるべく論理的にするよう心がけています」

匠と後継者のいい関係

吉田が取り組んだ匠の技能の「標準化」の功績は大きい。吉田がまだ若手だった時代は、匠マイスター制度もなければ、作業の指針となるような資料も不十分だった。「標準化」によって、技能・技術が安定的に引き継がれ、精度の高い自製生産設備を維持できる。それは、ミツトヨという企業の強さに繋がっているといえよう。

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