世界最高クラスの三次元測定機を世に送り出し、なおも精度追求を止めない匠マイスター

鈴木 政夫

匠マイスター鈴木 政夫

技能名:仕上げ

作業名:CMM組立

MC工場 生産技術部 生産技術1課 2係

AIやロボット、3Dプリンターなど、ものづくりの現場では技術革新が目覚ましい。しかしながら、テクノロジーだけでは到達できない未知の領域がある。
この特集では、精度の限界に挑みつづけ、卓越した技能でミツトヨ・クオリティを支える匠マイスターにフォーカスを当て、その技能と伝承の取り組みに迫る。

今回は、ミツトヨが誇るフラッグシップモデル「LEGEX」の開発・量産を立上げ、ひたすら精度の限界に挑んできた匠マイスター、鈴木政夫。

プロフィール

鈴木 政夫(すずき まさお)

栃木県出身。1980年入社。宇都宮事業所の機器製造課に配属。以来、「LEGEX」をはじめ三次元測定機の試作・評価・生産の分野に携わり、数多くの試作・立上げに寄与。ガイド部品のラップ仕上げから組付け、補正や評価まで全工程を担うことができるMC工場随一の技能者。2020年には「LEGEX匠 開発プロジェクト」へ参画。後進者にそのノウハウを伝承している。

私が最も印象に残っている製品プロジェクト

1980年の入社以来40年以上にわたって、おもに三次元測定機の試作、量産化に向けての組立性評価・工程設計などに携わってきた匠マイスターの鈴木政夫。ガイド部品のラップ仕上げから組付け、レーザーなどを駆使した補正や評価まで製造の全工程を担うことができる宇都宮MC工場随一の技能者だ。鈴木はこれまで実に多くの製品プロジェクトに参画してきた。匠の技能を持ってしても完遂するのが難しいプロジェクトが少なくなかった。

私が最も印象に残っている製品プロジェクト

LEGEXシリーズを生産しているMC工場内観

「一番印象に残っているのはやはり、1998年の『LEGEXシリーズ』開発・量産化プロジェクトです。今までにない最高の精度を追求しようということだったので、非常にやりがいがありました。また、設計からプロジェクトに関われたことも、私にとっては嬉しいことでした。もう一つは、2006年の『LCDリペア装置用XYステージ』の立上げです。納期が非常に厳しい中で、特注品のガントリステージを100台韓国に出荷することができました。難しい仕事をやり切ることができたということで印象に残っています」

ガントリステージは、液晶を製造する設備の中にベースとなるステージをつくるのだが、大きさが3 mほどになり、一枚の石がつくれなかった。そこで、石材を2分割して、接着剤で接合し組み合わせた。三次元測定機とはまったく違ったつくり方の製品だったと、鈴木は当時を振り返る。

常に精度で負けない三次元測定機をお客様に

鈴木が最も印象深いプロジェクトとして挙げた「LEGEX」シリーズは、世界最高クラスの精度を達成するために、誤差要因を徹底的に分析し、排除した三次元測定機だ。組立工程においては、各ガイドの真直度精度をハンドラップ、つまり手作業で仕上げている。また、重要な部品の取付け部は、ネジの締付けによる変化を抑えるためにキサゲ(※)作業によってすり合わせ作業を行うことで、より精度を向上させている。
これらの工程を踏んでいるのは、ミツトヨが生産する三次元測定機の中で「LEGEX」のみとなっている。

常に精度で負けない三次元測定機をお客様に

「常に精度で負けない世界一の三次元測定機をお客様に供給したいという一心で、新規開発評価、リニューアル、特注品の組立業務にあたっています。その中で発生する多くの課題を一つひとつ解決することで、知見を深め、技を磨いてきました。苦労も多かったですが、このような経験は私にとって財産です」

昨今、製品開発期間の短縮や生産の垂直立上げを迫られる中、いかに品質を確保しながらコストを抑えるかが企業の腕の見せ所となっている。鈴木はそのような場面で、これまで培ってきた経験を生かせればと考えている。

※ノミ状の工具を使い、表面を平らに仕上げる金属加工法

最高精度の「LEGEX」を超えていく

ミツトヨ製品で最高の精度を誇る「LEGEX」。その製品の完成を見た時、鈴木は大きな達成感を得たという。初項1 μm(0.001 mm)を切ること自体難しい領域で、初項0.3 μm(0.0003 mm)以下という異次元の数字を出したのだ。精度において妥協することなく、ひたすら追求した結果だった。

この「LEGEX」の開発から20年以上が経った2020年、新たな挑戦が始まった。「LEGEX匠 開発プロジェクト」だ。

「メカ精度を究極まで追い込むというのは、それまで誰も挑戦したことがありませんでした。私は負けず嫌いな性格ですから、やってやろうと気持ちが奮い立ちました」

「LEGEX」は、いわば製品なので、時間的な制約がある中での生産を求められるが、「LEGEX匠 開発プロジェクト」では、時間を気にせず自分が納得いくまで組立や精度を追求することができたという。「LEGEX匠 開発プロジェクト」は鈴木にとって製品を製造するというよりは、作品を制作するという作業に近かったといえるかもしれない。

「正確な測定」に立ちはだかった壁

鈴木はプロジェクトを進めるにあたって、高精度に仕上げるにはいかに正確に測定するか、という点で苦労したという。「LEGEX」を超えるものをつくるということで、現行の生産体制では対応が難しい点も少なくなく、さまざまな工夫が必要だった。鈴木はまず、測定の方法、道具立て、環境整備の準備を進めていった。

真直度・平行度の仕上げ精度は1 μm以下に定めた。ハンドラップ作業においては、組立後の部品がついた状態で、まっすぐになるように重量分を加味した精度に仕上げた。そのラップ作業の結果を効率的に計測するため、時間などの関係で既存の設備を利用したが、1 μm以下を測定できる設備ではなかった。

「正確な測定」に立ちはだかった壁

そこで、高精度ストレートエッジを使用し、反転法で設備の器差を求め、その器差を利用することで作業性を向上させた。既存の測定器もそのまま利用できることが少なかったので、必要に応じて道具立てを提案しながらの作業となった。

また、ワークテーブルの仕上げの際には、4点支持の片側2点をシーソーのような機構で受けることにより、つまり仮想の3点にすることで、ワークにストレスのない状態で測定した。その結果、1000×900 mmの大きさで、平面度の仕上げ目標3 μmに仕上げることに成功した。その後の表面キサゲ模様は、作業を5回繰り返し、複雑で深みのある模様をつけた。

「LEGEX匠 開発プロジェクト」では、匠の発想・工夫・技能が随所に詰め込まれた。鈴木が手がけてきた「LEGEX」シリーズは、ものづくりの現場の高度な測定要求に応え、国内外のメーカー、研究所などから高い評価を得ている。

精神面をサポートしながら、「よく考える」ことを教育

鈴木は技能・技術を継承するために、「LEGEX匠 開発プロジェクト」を通して、後進へ教育を施した。意義深いプロジェクトであることと、匠による指導とあって、若手技能者にとっては価値のある経験となったに違いない。

鈴木は「今後自分で考え、行動できる技能者になってもらう」ことに留意して、指導を行った。特に高精度な部品の仕上げ・測定において、いかに正しい値を導き出すかを常に後進に問いかけ、自分で考えることに重点を置いて作業を進めていった。

精神面をサポートしながら、「よく考える」ことを教育

「焦ってしまうと、よく考えることなく作業を進めてしまい、仕上げ・測定に影響します。焦っている時こそ一呼吸置いて、落ち着いて考えることが重要なのです。実は、私も若い頃はあまり考えなかったかもしれません(笑)。経験を重ねることで深く考えるようになりました」

作業一つひとつの意味をよく考え、納得できるまで次の段階には進まない。そんな鈴木の流儀は、若い技能者の胸に染み入ったようだ。プロジェクトを通して、考えながら行動する心構えが身に付いたと、鈴木は自身の教育に手応えを感じている。

さらに、鈴木が後進に伝えたいことは、「よりよい製品をつくるためには、日常の業務からも得るものがある」ということ。

例えば、製品のトラブル対応。製品トラブルは、常にその内容が同じとは限らない。トラブルが起きれば、原因を考え迅速に対応しなければならない。そこで試されるのが、考える力。常日頃から問題意識を持って、努力を続けてほしいと鈴木は語る。

技能をさらに磨いて、後進に伝え残す

40年以上にわたって三次元測定機のすべてに関わり、「MC工場随一の理解者」といわれる鈴木。最後に今後の抱負を聞いた。

「私がやるべきことは、よい製品を継続して生産していくために、設計・開発段階で不備の発見をし、改善提案をすること。そして、試作から量産までのすべての工程を確実に実行し、的確な製品立上げを行っていきたいと思います」

また、鈴木は「自分の技術・技能をさらに磨いていきたい」と、まだまだ自己開発に意欲をみせる。ミツトヨの土壌があったからこそ培われた技能、これをさらに進化させながら後進に伝え残すことが、鈴木に課せられた重要な使命なのだ。

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